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性癖嗜好大百科を出版した理由

──性癖研究家 フェチケン

性癖嗜好大百科を出版した理由

「そんなこと、人には言えないよ。」

長年、“性癖”や“フェティシズム”について話すたびに、私が最も多く耳にしてきた言葉だ。それは照れなのか、羞恥なのか、それとも軽くジャブを打つような拒絶なのか──いずれにしても、人の“嗜好”というものは、あまりに身近であるがゆえに、逆に語りにくいらしい。

だが私は、ずっと思っていた。
語られないからこそ、語る価値があるのではないか? と。

本書『性癖嗜好大百科』は、そんな問いから生まれた。
そしてこれは、性癖を「笑い話」でも「恥ずかしい秘密」でもなく、一つの文化的・心理的な現象として真っ当に扱いたい──という、私なりの“反抗”でもある。


「普通じゃない」は、ほんとうに異常か?

たとえば、あなたは足首に魅力を感じるだろうか?
メガネをかけた人に、なぜかドキッとしたことは?
ストッキングの張り、ラバーの匂い、汗ばんだ声、ヒールの音。
それらが「なんとなく気になる」と思った瞬間は、一度でもなかったか?

私は、そういう“なんとなく”にこそ、人間らしさの核心があると思っている。

人は皆、何かしらの偏りを持っている。恋愛でも、趣味でも、食事でも、仕事でも。
なのに「性的嗜好」だけがやけにセンシティブで、「変態」とラベリングされたり、まるで秘密の罪のように扱われたりする。それは果たして、健全なのだろうか?

本書では、さまざまなフェティシズム──いわゆる性癖・嗜好を文化的・心理学的・社会的な観点からまじめに、でも面白く紹介している。
「ただのエロ話」と見なす人もいるかもしれない。
でも私にとっては、それぞれの“好き”には記憶・環境・美意識・アイデンティティが深く根ざしていると確信している。


「変わった好き」は、あなたの物語かもしれない

性癖という言葉は、漢字で書けば「性の癖」。
だが私はそれを「性の個性」と読み替えたい。

誰かがパンストに心を奪われた瞬間があった。
誰かが香水の残り香に、昔の恋を思い出した。
誰かがアニメキャラの声に、現実逃避の救いを見た。

──そんな“好き”の数だけ、人生がある。

この本を作るにあたって、私は数十人の愛好家たちに話を聞いた。
「なんでそれが好きなんですか?」と。
答えはバラバラだった。
「初恋の人がそれをしてたから」
「昔はコンプレックスだったけど、今は誇りになった」
「説明できない。でも、たまらなく惹かれるんです」

そのどれもが、誰かの物語だった
つまり、性癖とは“性的な癖”である前に、その人が歩んできた人生の積み重ねであり、記憶の風景であり、愛のかたちなのだ。


この本が目指すもの

私は“性癖研究家”と名乗っているが、別に博士号があるわけでも、国際学会で論文を発表しているわけでもない。ただ、人のフェチについて真剣に面白がる覚悟はある。

本書では、数々のフェティシズムを取り上げている。
身体部位から感覚的嗜好、素材フェチ、コスチュームフェチ、関係性の偏愛、シチュエーション、ロールプレイ……中には「これはもうジャンルなのか?」というようなニッチなものもあるかもしれない。

でも、それでいいのだ。

これは百科であり、事典であり、観察記録であり、ちょっとした讃歌でもある。
人間というものは、こうも多様で、こうもこだわり深く、そしてこうも面白い。
そんなことを、ページをめくるたびに味わってもらえたら本望だ。


さいごに:恥ではなく、誇りとしてのフェチ

世の中には、「フェチなんてくだらない」と鼻で笑う人もいる。
だが私は声を大にして言いたい。

くだらないものにこそ、人間の本音が宿っている。

フェチは小さなこだわりであり、小さな愛である。
それは恋愛のように騒がしくないが、とても誠実で、とても美しい。
だからこそ私は今日も、“変わった好き”を集め続ける。

この本が、あなたの中に眠っていた「好き」に光を当てるきっかけになれば嬉しい。

ようこそ、『性癖嗜好大百科』へ。
フェチケンと一緒に、“自分だけの地図”を探す旅に出かけよう。

──性癖研究家 フェチケン